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ボヤンシー 眼差しの向こうに【映画】現代の奴隷は日本にもいる。世界では、5000万人〈Buoyancy/2019年オーストラリア〉★予告編付き★

08/25/2023

経済発展を突き進む首都プノンペンに対し、いまだ貧困真っ最中の田舎を抱える、カンボジアという東南アジアの国の話。

そんな貧しい人をだまして連れてきて軟禁し、過酷な労働をさせ経営者がピンハネするという、いわゆる「貧困ビジネス」の存在は、途上国ならではで自分には関係ないってイメージありますよね。特にたまたま自分の周囲に被害者がいないなんて場合には。

たとえば実際の話をもとにしているという闇金ウシジマくんの「ヤミ金くん編」で登場した、鰐戸三兄弟が運営する“誠愛の家”。通常の人材派遣会社に暴力を付け加えた感じですが、人材派遣会社って露骨な暴力が無いぶん問題になりにくい。

それゆえ真綿で首を絞めるようにジワジワと搾り取っていくわけで、より怖い存在と言えるでしょう。

そんな日本の労働環境の劣悪さは、海外にもジワジワと広まっています。給料は安い。そもそも排他的な国民性なので、外国人は差別して当然と思っている。そして、ほとんど英語が通じない。

少子高齢化を何十年も放置しているため、どんどん経済は縮小し、貧しい国になることが確定している。

つまり貧困ビジネスは、さまざまな形で、この国にもまん延しているのです。

ボヤンシー 眼差しの向こうに《Buoyancy》の、あらすじ|毎日コップ1杯の冷や飯だけで、ひたすらペット用の飼料となる魚をとるお仕事

貧しいカンボジアの田舎町に住む14歳の少年チャクラ。家族と一緒に田んぼで働いているが、兄にはこき使われ、貧しいのに子だくさんの環境を作った父にはイラ立ちを感じている。

そのため日々自立への思いをつのらせている彼は、タイの工場で有給の仕事を紹介してくれるという地元のブローカー(仲介者)を頼ることにする。そして自分で稼ぎ財産を築こうと、チャクラは家族に内緒でバンコクに向かった。

向かう途中で知り合ったおじさんのケアチャクラはバンコクに着くが、ブローカーが嘘をついていたことに気づく。行き先はタイの工場ではなかったのである。そして他のカンボジア人やビルマ人とともに、奴隷として漁師の船長に売られてしまう。

チャクラケアたちは海に閉じ込められ、食事は1日にコップ1杯の冷や飯だけで、ひたすらペット用の飼料となる魚をとらされる。漁獲物を売り払い物資を補充するために寄港することもあるが、奴隷は陸に上がることが許されずひたすら海上で作業に従事。

そのような状況下で健康を害した者や逃げようとする者は容赦なく海に投げ捨てられるなか、ケアが反抗をはじめるが失敗し処刑される。唯一の仲間が殺され、希望と人間性が失われていく船上。

そこでチャクラは自由になるため、反対にトロール船を支配することを決意する。

ボヤンシー 眼差しの向こうに《Buoyancy》の、観る前に知っておきたい知識と見どころ|東南アジアの漁船では、約20万人の男たちが奴隷労働に従事

美しさと悲しみは親和性が高い

上から見た船の映像や心情を表現している目のアップなど、切り取った画がいちいちスタイリッシュでカッコいいんですが、それらの映像が美しいぶん悲しみが強調されます。

たとえばカメラをパンしていってキラキラ光る海の表面から船の縁でうなだれる労働者の憂鬱まで見せるカメラワークなど、セリフだけでなく画でも過酷さとか切なさとか状況を語ってくれるので、頭だけでなく心に直接訴えてきます。

骨を武器にするところは2001みたい。

なおラストに向けてのクライマックスシーン、電源を落として船内が真っ暗になるあたりからドキドキが止まらないです。

金で買えないものは本当にあった

昔の、クメール・ルージュ時代の大騒動については見聞き読みしたことはありますが、現在はどんなふうになっているのか知りませんでした。裸足でサッカーしていたり、壁に隙間のある家で家族が円になって食事をしていたりと、カンボジアの田舎では今でもまだこんなに貧しいのかと驚きました。

教えていただきありがとうございます。

生まれる環境は金では買えないと思うと力が抜けて切なくなります。

「人権」のお宝性は世界共通だろ

タイトルの「Buoyancy」とは、英語で浮き上がる力、略して浮力のこと。元気や希望的なイメージとして使われることもあり、カンボジアの田舎の貧しい境遇から浮き上がろうとする主人公のことを指していると思われます。

この映画がなぜオーストラリアで作られたのかはよくわかりませんが、人権問題に国など関係ないというスタンスは褒めて称えて見習いたいです。

東南アジアの漁船では約20万人の男たちが、奴隷労働に従事。水産業は60億ドル以上の収益を上げている。

つまり、この作品、まるっきり「おい、地獄さ行ぐんだで!」でおなじみ蟹工船の、縮小版(人数が少ない)ですね。最後にはこんなメッセージが映し出されます。

──虐待や殺害は日常的。昼間でも人影に怯える。自分の存在すら誰も知らない。この悪夢を人々に伝えたい
──東南アジアの漁船では約20万人の男たちが、奴隷労働に従事。水産業は60億ドル以上の収益を上げている。

ボヤンシー 眼差しの向こうに《Buoyancy》の、キャストと予告編|Cast and Trailer

◎1h33m (2019)

  • チャクラ(主人公。田舎の貧しい農家の次男で、この境遇から抜け出したいという思いが強い):サーム・ヘン
  • キー(チャクラと一緒に、騙されて船に乗せられたおじさん。家族持ち):モニー・ロス
  • ロム・ラン(悪者1):タナウット・カスロ
  • カディール(悪者2):サーイチア・ウォンウィロート

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