"Coffee and Cigarettes"は、2003年ジム・ジャームッシュ監督によって制作されたブラック・コメディ。11つの短編で構成されたオムニバスで、全編モノクロ。出演者たちがコーヒーとタバコをたしなみながら展開するトークとか空気感、シュールな笑いを楽しむ映画です。
ストーリー自体は風刺的なニュアンスも多く、ある程度の知識がないとおもしろさが伝わらないものもあって、いかにもインディーズ界巨匠の作品って感じ。登場人物は役名が無く、みんな本名というか、演じているその人の名前をそのまま使用しています。そのため芝居感が薄く、日常で普通に他人の会話を盗み聞いている感覚です。
コーヒーと灰皿が載ったテーブルを上から撮った画も粋です。ただ、いくつかの話でカップの数と登場人物の数が合っていません。あとコーヒーで乾杯する場面がよく出てくるんですが、こんな文化アメリカにあるんですか? この映画だけの演出ですか?
なお Otis Redding がカバーした Al Braggs の楽曲のタイトルは "Cigarettes and Coffee"。
コーヒー&シガレッツ《Coffee and Cigarettes》の、あらすじ|コーヒーとタバコを構成する11編の会話劇。
1.Strange to Meet You
いきなりロベルト・ベニーニが登場。あの「ライフ・イズ・ビューティフル」のお父さんである。もちろん英語はイタリアなまり。
スティーブン・ライトはロベルトに「子ども向けにコーヒーを凍らせてカフェイン・アイスキャンディーを作る」といったアイデアや、寝る直前にコーヒーを飲むとインディ500に出ている車のカメラのように速く夢を見られるというわけのわからない話をしている。当然ロベルトは何も理解できていないが、おもしろがって聞いている。
スティーブンは急に歯医者を予約していたことを思い出す。しかし怖くて行きたくないため、なぜかロベルトが代わりに行くことになる。
2.Twins
この左側の人(シンクエ・リー)、同じくジム・ジャームッシュ監督の「ミステリートレイン」にも出てた。スクリーミン・ジェイ・ホーキンスと一緒にホテルのフロントにいたベルボーイだった人だ。顔見てすぐわかった。右の人もスパイク・リー監督の作品でよく見る人だ。
と思って調べたら、なんと3人とも兄弟だった。
この話では双子を演じており、もう1人エルビス・プレスリーの悪の双子についての持論を展開するウェイター役として、おなじみ名脇役スティーブ・ブシェミが登場。エルヴィスって実際に双子だったそうな。ただし死産だったので、ここで出てくる替え玉話はウソだけど。
ちなみにシンクエ・リーは、第8話目の「Jack Shows Meg his Tesla Coil」にも登場していたりする。
3.Somewhere in California
イギー・ポップ(わざわざ言うまでもなくザ・ストゥージズのメンバー)とトム・ウェイツ(言うまでもなくピンシンガー)が登場。禁煙したことを祝うために煙草を吸い、コーヒーを飲み、ぎこちない会話をしている。トム・ウェイツがいちいちトゲのある返しをするので、空気が微妙になるところが笑うポイント。
タバコを辞めた人って、言い訳というか口数が多い。「辞めたんだから堂々と吸える」とか、いかにもなセリフである。
トム・ウェイツって、芝居してても歌っているみたいだ。「イギーと呼んでくれ」と言ってるのに、トムは最後までイギーのことをジムと呼んでいた。
4.Those Things'll Kill Ya
ジョセフ・リガーノとヴィニー・ヴェラが、コーヒーを飲みながら喫煙の危険性について会話をする。年齢差がありそうなため、息子というより孫っぽくみえる息子のヴィニー・ヴェラJr. が日本人を表すのに目尻を上げるのだが、これ現在ではポリコレ的にNGかと思われる。
なお割と有名な話ではあるが「苦いまま飲むのがダンディでハードボイルドでカッコいい」と思っている日本人以外、たいていの国ではコーヒーには必ず砂糖やミルクなんかを入れるらしい。
5.Renée
ルネ・フレンチは、銃のカタログみたいな雑誌をめくりながらコーヒーを飲んでいる。自分で色も温度も完璧に仕上げたコーヒーに、店員のE.J.ロドリゲスが勝手に注ぎ足すので迷惑。店員は、その後もしつこくちょいちょい画角に登場するのでそのたび笑ってしまう。
アメリカってやたら店員が話しかけてくるよね。
字幕ではルネとなっているが、これってフランス読み?
6.No Problem
メガネをかけているアレックス・デスカス、一人なのにカップが3つ。後から来たイザーク・ド・バンコレとは、コーヒーとタバコを片手に語り合う友人同士。こんなぬるい感じの2人がフランス語と英語を交えて会話しているのが洒落ている。ただし、他の話同様に相変わらず何とも言えない空気感。
恋人同士ならまだしも、飯食うとかならまだしも、ただの友人同士で話もないのに会いたいとか思うのか。
7.Cousins
ケイト・ブランシェットが、いかにもセットっぽいホテルのラウンジに座っていて、シェリーという従姉妹と久しぶりに会う。これ途中まで気づかなかったけど1人2役。まったくの別人に見えるから、役者の技術には改めて驚かされる。
経済的な余裕とか、どういう人たちと出会って何を学んできたかとか、どんなツラいことにあって、それをどう乗り越えてきたかあるいは乗り越えられなかったかとか、そんなこんなやあんなで人ってやつは同じ顔でも全然別人になってしまうのだ。
2人とも煙草を吸っているのに、ホテルのスタッフはケイトがいなくなってから禁煙だと言うところでオチ。
8.Jack Shows Meg His Tesla Coil
「ホワイト・ストライプス」のジャック・ホワイトとメグ・ホワイトが登場。この2人、当時は離婚したてホヤホヤだったはず。
ジャックはメグに自作のテスラコイル(高周波、高電圧を発生させる装置)を見せ、ニコラ・テスラの業績と「地球が音響共振の導体であると認識した」というセリフについて語る。
最後にはコイルが壊れ、メグとウェイターが壊れた原因について意見する。このウェイターが、シンクエ・リー。なお途中、ジュークボックスからザ・ストゥージズの "Down on the Street "が流れる。
9.Cousins?
イギリス人俳優のアルフレッド・モリーナとスティーヴ・クーガン。英国人だからか、この2人はコーヒーではなく紅茶。
モリーナはクーガンが遠い親戚であることを利用して、細かすぎる家系図を見せながら友好関係を築こうとしたり、ショービジネスの企画を提案するなど興奮気味かつ一方的に話している。
しかし、クーガンはそれを遠回しに避け、モリーナから二度と連絡が来ないように言い訳をする。しかしモリーナがスパイク・ジョーンズと親友であることが判明。
クーガンは手のひら返しを試みるが、時はすでに遅すぎた。
10.Delirium
リアルな従兄弟同士であるウータン・クランのRZA(レザ)とGZA(ギザ)が、カフェインフリーのナチュラルハーブティーを飲みながら、カフェインとニコチンの危険性についてウェイター役のビル・マーレイと語っている。
GZAは、寝る前にコーヒーを大量に飲むと夢が「インディ500」のカメラショットに似ていると、1話目の "Strange to Meet You" でスティーブン・ライトが言ったことと同じようなことを言う。
11.Champagne
ビル・ライスとテイラー・ミードが、コーヒーブレイクで昔話を交わしている。
「ニコラ・テスラは地球を音響的な共鳴の導体として認識していた」という、8話目の "Jack Shows Meg His Tesla Coil" でジャック・ホワイトが口にしていたセリフをビル・ライスが繰り返している。
このセリフなど、一見つながりのない各話の中で常に繰り返されるテーマ同士の関連性を見つけることが、この映画を楽しむポイントかもしれない。
Cast and Trailer《コーヒー&シガレッツ「Coffee and Cigarettes」キャストと予告編》
◎1h35m (2003)
1.Strange to Meet You
ロベルト・ベニーニ、スティーヴン・ライト
2.Twins
ジョイ・リー、サンキ・リー、スティーヴ・ブシェミ
3.Somewhere in California
イギー・ポップ、 トム・ウェイツ
4.Those Things'll Kill Ya
ジョー・リガーノ、ヴィニー・ヴェラ、ヴィニー・ヴェラ・Jr
5.Renée
ルネ・フレンチ、E・J・ロドリゲス
6.No Problem
アレックス・デスカス、イザック・ド・バンコレ
7.Cousins
ケイト・ブランシェット(一人二役)
8.Jack Shows Meg His Tesla Coil
メグ・ホワイト、ジャック・ホワイト
9.Cousins?
アルフレッド・モリーナ、スティーヴ・クーガン
10.Delirium
GZA、RZA、ビル・マーレイ
11.Champagne
ビル・ライス、テイラー・ミード