楽曲のリリースをベースに見るとすれば、デビューは1962年、ラストアルバムは1970年。ただし、ビートルズはその途中でライヴ活動をやめているので、1966年のサンフランシスコが最後のステージとなっています。
この映画は、レコードデビュー直前の1962年キャヴァーン・クラブでの演奏から最後のUSツアーまで、ライヴを行なっていた時期の模様を描いている作品。
ただし、あくまでこの「時期」の話なので、ステージやツアーといったライヴの話ばかりではないです。"A Hard Day's Night" や "HELP!" なんかの映画の撮影エピソードなんかも出てきます。
監督はロン・ハワード。「バックドラフト」や「ビューティフルマインド」の監督であり「アメリカン・グラフィティ」の、あの若い(当時)俳優です。
途中からライヴをやめてしまったビートルズですが、それまで剣道や柔道、空手などの武道の大会向けに使用されていた「日本武道館」で初めて音楽のコンサートを行なったり、それまで野球場でNYメッツの本拠地だった「シェイスタジアム(Shea Stadium)」で世界で初めてスタジアム・コンサートを行なったほか、ミラノの自転車競技場やマドリードの闘牛場でも行うなど、その後のアーティストの活動すべてに大きな影響を与えました。「あ、コンサートホール以外でもやっていいんだ」っていう発想はここからかと。
ただまぁ必要に駆られたと言いますか、人気が出すぎて当時のハコでは収容しきれなかったんですね。そんなもんだから音楽公演向けに作られたわけではない会場では、当時の音響技術はまるで役に立たなかったわけです。ギターやベースアンプの出力は足りないしPAシステムも無い。もちろん返しのモニターなんかも無いからメンバーの演奏もろくに聞こえず、もう勘で合わせていたとか。
そんなこともあってメンバー間でストレスが溜まりに溜まっていった結果「こんなことやってられるか」となったのは必然と言えましょう。たぶん決定打となったフィリピン大統領パーティお断り事件とジーザス発言事件含め、この頃の狂乱がしっかり記録されており、その後のビートルズがなぜあの方向に進んだのか、わかるようになっています。
ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years《The Beatles: Eight Days a Week - The Touring Years》の、あらすじ|メンバーも協力した、Beatles公式のドキュメンタリーです。
2022年の時点で、メンバーのうち50%が存命。そのポールとリンゴをはじめ、ヨーコさんやオリヴィアが全面協力して完成したグループ公式のドキュメンタリー。
残念ながらピート・ベストが在籍していたハンブルグ時代の映像は、客が誰もスマートフォンを持っていなかったため存在しない。しかしデビュー直前キャバーンでの貴重な "Some Other Guy" から1963年〜66年のワールドツアーまで、ライヴを行なっていた時期にフォーカスしてバンドや時代の変化の様子を探求している。
なお日本版には来日時のエピソードが他国のより長めに入っているそうで、赤尾敏先生の姿は日本でしか見られないかもしれない。ちなみに私はまだ生まれていなかったため、どこにも参加できませんでした。
ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years《The Beatles: Eight Days a Week - The Touring Years》の、観る前に知っておきたい知識と見どころ|音楽的な高評価とポピュラリティを併せ持つ、20世紀最大のロックバンド
2022年にチャート1位を取った、50年前に解散したグループ
ここ最近、というより解散してからも新しいリマスター版やら解説本やらドキュメンタリー映画などがリリースされ続けており、音楽的な高評価とともにポピュラリティも獲得しているバンドの筆頭であるザ・ビートルズ。
2022年に出たRevolverのDemix盤がビルボードのアルバムチャートで1位取ったっていうんだからワケわかんないですよね。ポールとリンゴの握手券付けたら、もっと大変なことになったでしょうか。
なお、別のドキュメンタリーでも観たことあるんですけど、この規模の成功は誰の想像をも超えていたようです。前例、たとえばエルヴィス、シナトラ、JFKでさえここまでの熱狂は無かったと。「夏の終りにはブームが去るだろうから、急いで撮れ」と言われていたというア・ハード・デイズ・ナイトの監督、リチャード・レスターの言葉も何か歴史的な意味があるような気がしますね。
ブライアン・エプスタインやジョージ・マーティンとの化学反応のほか、時代の流れなどすべてが噛み合ったのでしょう。
解散の原因
ビートルズ登場以前はソロシンガーの時代であり、ソロとそのバックという形態が定型だったので、今のFAMILY CLUB(旧ジャニ)みたいにグループのメンバーそれぞれがスターなんてのは斬新だったみたいです。髪型とスーツを揃えたから、かえって各メンバーの個性が出たのかもしれません。
ブライアンは本当に有能です。解散の原因、いろいろ言われているけど、一番大きいのはやはりブライアンの死だったと思います。
社会運動にミュージシャンが普通に関わる国
結果論でしょうけど、フロリダ州ジャクソンビルのゲイターボウルでの公演で「人種隔離をするなら演らない」と宣言した件をはじめ、この頃のロッカーたちがアメリカ公民権運動に関わった功績は決して小さくないでしょう。日本でも坂道グループとか誰かが、少子化対策とか動かさないかな。
当時はJFKやマルコムXの暗殺やらキューバ危機やらビキニ実験やらなんだか穏やかじゃない空気だったし、警備体制のノウハウも今ほどちゃんとできていなかったから怖かったろうに。
その他
- 若い頃はリンゴが兄貴分だったというの、ちょっとおもしろい
- ワシントンDC公演の "I Saw Her Standing There" のソロがアドリブ!
- ファンの「リンゴの鼻がセクシー」とか「ジョージのまつ毛がセクシー」とか、何だこれ
- 呼び方、ジョージ(マーティン)とジョージ(ハリスン)で紛らわしくないのかな
- 手動でドラムの丸いステージの位置を変えてた
- LP (Long Play) レコードって今わかんないよね、今LPつったらランディングページだもんね
中期以降、当時のヒットチャートにおけるビートルズの位置
ライヴ活動の終焉自体、ロックバンドとしては異例でした。でも、それがサージェント・ペパーズに繋がっていくわけです。
ちなみに今で見ると各アルバムは作品としてどれも高く評価されているのでわからないんですが、成長するごとに発売当時のチャート順位は少しずつですがスローダウンしていたんですね。知らなかった。
ラストはもちろんルーフトップ
映画のラストはもちろんルーフトップ。ビートルマニアとしては、不定期で何度でも観返したい作品でした。
ただ途中、なぜかモーツァルトの「ピアノ協奏曲第21番:第2楽章」や、ヴィヴァルディの「ヴァイオリン協奏曲・四季『冬』のラルゴ」といったクラシックが使われています。なぜか。
ザ・ビートルズ〜EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years《The Beatles: Eight Days a Week - The Touring Years》のキャストと予告編|Cast and Trailer
1h37m (2016)
- リチャード・レスター(映画 "A Hard Day's Night" と "Help!" を撮った監督)
- ジョージ・マーティン(ビートルズの楽曲制作と録音、音楽関連における、ほぼ全作品のプロデューサー)
- マルコム・グラッドウェル(イギリス生まれカナダ育ちの、アメリカのジャーナリスト)
- シガニー・ウィーバー(アメリカの俳優)
- ウーピー・ゴールドバーグ(アメリカの俳優)
- エルヴィス・コステロ(リヴァプール生まれのミュージシャン。若い頃の見た目は、ちょっとバディ・ホリーっぽい)