よく難解だと言われるフランス映画ですが、これはアメリカの大衆向け映画くらいわかりやすいです。
なおフランスはアメリカのことをちょっとバカにしてるなんてことを聞いたことがありますが、フランスの「自分たちの国が一番!」というようなとこは我が国の「日本スゴイ!」に通じるところがありますね。
この映画、簡単に5文字でまとめると家族愛の話。
もちろんそれ以外にも、観る人それぞれの立場によって多方面から刺さる部分がある作品です。たとえば村長選に立候補しようとしている人とか音楽の先生とか、ラテックス(ゴム)アレルギーの子どもとか。
主人公の長女ポーラ以外の家族は父母も弟も全員が聴覚障害者であり、彼女は家族と世間との通訳として重要な存在。だからこそポーラのさじ加減で周りの人たちの意思疎通にズレが生じるのですが、それも物語のポイントとなっていたりします。
それにしてもこの邦題は、もう少しなんとかならなかったのでしょうか。私が責任者ならOK出しません。原題を直に訳すと「牡羊座の家族」となります。
エール!《La Famille Bélier》の、あらすじ|自分を頼りにする家族と歌への情熱との間で、悩む主人公
植物と空と水に囲まれたフランスの田舎町に住むベリエ一家。16歳の長女ポーラを除き、母のジジと父のロドルフ、そして弟のクエンティンは聴覚障害者である。
家庭内では手話を通して互いにコミュニケーションをとっており、耳の聞こえるポーラは世間と家族との通訳係を担っている。
ある日、合唱団のリハーサルを行っているとき、音楽教師のトマソン先生がポーラの歌の才能を発見。そして彼女に、歌の道を目指しパリで開催されるオーディションに出場するよう勧める。ポーラは、彼女を頼りにする家族と歌への情熱との間で悩む。
しかし、家族は徐々に応援する姿勢に変化していき、ポーラは無事オーディションに臨むことになる。
エール!《La Famille Bélier》の、観る前に知っておきたい知識と見どころ|小太りで猫背な主人公が、だんだん愛おしくなってきます
映像を作る人は頭いいよ
映画冒頭、家族の日常らしい朝のシーン。
主人公のポーラが自分の部屋を出てリビングに向かうんですが、その流れのなか家族の姿が順番に登場して映るだけで、それぞれのキャラとか家族全体の空気感などがわかってしまうんです。
本作のエリック・ラルティゴ(Eric Lartigau)監督にかぎりませんが、映像を作る人って頭いいというかセンス抜群というか、感心しました。
フランスの田舎は、照度が高い
南仏と印象派のイメージもあってか、フランスの田舎って陰鬱とした印象がありませんね。つねに太陽がピカってるみたいな。
バックに流れるイギリスのデュオ The Ting Tings の曲、That's Not My Nameがよく似合います。映画って観るだけで、ちょっとだけ外国へ行けた気分になりますよね。そもそも映画は疑似体験ですもんね。
子どものころは大人って賢くて絶対な存在だと思ってた
病院かなんかで、娘を真ん中にして座っている夫婦が自分たちの性交渉の話を手話でしている。こういうことするのってフランスだからですか?それとも映画だからですか?
子どものころは大人って賢くて絶対な存在だと思ってたけど、こうやって見ると、年月と経験値なんて関係なく人間はみんな平等にバカだ。
子どもに頼る親
子どもに頼る親がいる家庭も、ひとつの家族の形なのでしょう。親とか国とか経済状態とか、生まれる環境は金では買えませんからね。
家族を見捨てられないとかいうそれは、1993年の映画ジョニー・デップ主演の「ギルバート・グレイプ」を思い出しました。グレイプ家の方が大変そうだったけど。
マイク・ブラントと、ミシェル・サルドゥ
「マイク・ブラントは……」「あのミシェル・サルドゥ」というトマソン先生のセリフから、この方々が気になって調べました。日本でたとえると演歌の大御所的な風を感じました。
マイク・ブラントは1970年代にフランスで大人気だったイスラエル出身のシンガー。フランス語が全く話せなかったのにシャンソンやポップスを歌いました。代表曲の一つには沢田研二さんがカバーした「Mais dans la lumière」があります。1975年、パリのアパートで27歳で亡くなったんですが、27クラブのリストには名前が見つかりません。
ミシェル・サルドゥも、60年以上にわたってフランスの人たちを魅了し続けてきた人気アーティスト。特に全盛期は70年代から80年代で、代表作は「La maladie d'amour(恋のやまい)」。
小太りで猫背な主人公のポーラが、だんだん愛おしくなってくる
お揃いのTシャツで歌う姿にニヤけました。ただ背中合わせで歌っているだけなのに、なぜ笑えるんだろうと。
こういう絶妙な感じの笑いが個人的に好みです。あと、小太りで猫背な主人公のポーラが、だんだん愛おしくなってきます。いつか会う機会があったら、本人に「まったくもってハマリ役でしたよ」と伝えたいです。
フランスだなー
嬉しいとき自然にキスできる文化ってうらやましいですね。我が国で気兼ねなくできる相手は、ペットとギリギリ自分の子だけですから。
とにかく、特に大きなイベントはないけど、大筋は定型をはずさないけど、なんとなくいい映画でした。メルシーだけ聞き取れました。あと黄色いカングーを見て、フランスだなーって感じました。
エール!《La Famille Bélier》の、キャストと予告編|Cast and Trailer
◎1h45m (2014)
- ポーラ(ベリエ家の長女、主人公):ルーアン・エメラ
- ジジ(母):カリン・ヴィアール
- ロドルフ(父):フランソワ・ダミアンス
- クエンティン(弟):ルカ・ゲルベルク
- トマソン先生(ポーラの才能に気づく音楽の先生):エリック・エルモスニーノ