リーマン・ショック(2007 Financial crisis)。
これは、負債総額6000億ドル超となる史上最大級の規模で倒産したことをキッカケに発生した、世界的な金融・経済危機のことです。
正直、金融関連の市場や商品、業界に明るくない人は何があったのかよくわからないのではないでしょうか。何を隠そう私もその1人。
しかし、仕組みを理解し、状況を観察し、先に起こることを予測した人たちのなかには、それを利用して大金を手にすることができた。
この映画は、実際にいたそんな人たちをモデルにしたお話。
こういうの見ると、共産主義者が資本主義を毛嫌いするのも、何となくわからなくはない気もしないではないですね。
内容を隅々まで理解しようとすると難しいですが、細かいところはわからなくても充分楽しめます。心配しなくても大丈夫。
なお演じるのは俳優たちですが、役名は実在の人物の本名そのままです。
マネー・ショート 華麗なる大逆転《The Big Short》の、あらすじ|リーマンショックで大儲けした人たちの、それぞれの人生
サイオン・キャピタルの場合
2005年。メタル好きでTシャツ姿のヘッジファンド・マネージャー、マイケル・バリーは、サブプライムローンによって米国の住宅市場が極めて不安定であることを発見する。
サブプライムローンとは、延滞や破産の経験があるような信用度の低い人向けのローンのこと。
マイケルは、2007年第2四半期に市場が崩壊し、金利変動型住宅ローン(市場金利の変動に合わせて利息の額が変わる。一方、額が一定なのが固定金利型)から金利が上昇することを予測、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ。投資対象の破綻に備えた保険みたいな金融派生商品で、企業などの破綻リスクを売買する)市場の創設を提案する。
この住宅ローン担保証券に賭けたり空売りしたりして利益を得るためである。
10億ドルを超える彼の長期的な賭けは、大手投資銀行や商業銀行によって受け入れられるが、毎月かなりの保険料を支払う必要があった。
このため、彼の顧客多くは逆に売却しろと要求するが、マイケルはこれを拒否。
彼は最終的に出金を制限し、投資家の怒りを買う。
最終的に市場は崩壊し、彼のファンドの価値は489%増加。
巨額の保険料を考慮しても全体の利益は26億9000万ドルを超え、主要顧客の1人、ローレンス・フィールズは4億8900万ドルを受け取った。
フロントポイント・パートナーズの場合
ドイツ銀行のグローバル資産担保証券取引担当重役、ジャレッド・ヴェネットはマイケル・バリーの分析を理解した最初の銀行家の一人である。
自分のクオンツ(分析、予測)を使ってマイケルが高確率で正しいということを検証したヴェネットは、市場に参入し自らCDSを購入することを決意する。
しかし毎月多額のプレミアム(保険料)が発生するため、彼はCDSを売却して規模を縮小しようと考えた。
ヴェネットは『フロントポイント・パートナーズ(ヘッジファンド)』のマネージャー、マーク・バウムに「サブプライムローンをAAA格付けの債務担保証券(CDO)にパッケージ化することが、最終的な破綻を招く」と説明する。
『フロントポイント・パートナーズ』のチームは南フロリダを訪れ、実地調査を行なった。
そこで、住宅ローンのブローカーが「ウォール街の銀行に、リスクの高い住宅ローンに対してさらに高いマージンを支払う住宅ローン取引を売却する」ことで利益を得ており、それがバブルを生み出していることを発見。
この事実を知った『フロントポイント・パートナーズ』のチームは、ヴェネットからスワップを購入する。
2007年初頭、これらのローンは債務不履行におちいり始めた。
反対にCDO(債務担保証券)の価格は上昇し、格付け会社は債券の格下げを拒否。
マーク・バウムは『スタンダード&プアーズ(アメリカの超大手信用格付け会社)』の知人から、格付け会社間の利益相反と不誠実さを知らされる。
また、バウムはラスベガスで開催されたアメリカ証券化フォーラムでCDO(債務担保証券)のマネージャーによって「“シンセティックCDO(信用リスクを証券化する金融商品)”を含むモーゲージ債の保険市場が、モーゲージ・ローンそのものの市場よりもかなりデカい」ことを知った。
サブプライム債券が下落を続けるなかで、バウムは『フロントポイント』の傘下にある『モルガン・スタンレー(JPモルガンやゴールドマン・サックス、メリルリンチなどと並ぶ名門投資銀行)』もモーゲージ・デリバティブのショート・ポジションをとっていたことを知る。
バウムは『モルガン・スタンレー』が破綻する前に自分たちのポジションを売却するようスタッフから圧力をかけられたにもかかわらず、経済が破綻寸前になるまで売却を拒否、自分たちのスワップで10億ドル以上を稼いだ。
ブラウンフィールド・ファンドの場合
若き投資家のチャーリー・ゲラーとジェイミー・シップリーは『ブラウンフィールド・ファンド』という小さな会社を経営している。
ある日、大手投資銀行のロビーのコーヒーテーブルに置いてあったジャレッド・ヴェネットの資料を見た彼らは、スワップ投資への説得を始める。
しかしISDAマスター契約(国際スワップデリバティブ協会による取引の基本契約書)の資本基準額に達していないため、マイケル・バリーやマーク・バウムのような取引を行えない彼らは、退職した証券トレーダー、ベン・リカートに連絡し助けを乞う。
債務不履行にもかかわらず債券価値とCDO(債務担保証券)が上昇したのを見て、チャーリー・ゲラーは銀行が詐欺を働いているのではないかと疑いを持ったが、3人はアメリカの証券化フォーラムを訪れ、SEC(証券取引委員会)にはモーゲージ担保証券の活動を監視する規制がないことを知る。
そして彼らは、格付けの高いAAモーゲージ証券を空売りすることで、マイケル・バリーやマーク・バウム以上の利益を上げることになった。
その後、住宅ローンの債務不履行が増加するが、CDO(債務担保証券)の価格は上がらず、原資産である住宅ローン債券の価格も下がらない。
彼らは、銀行と格付け機関が、確実に来る暴落の前にCDOを売却し空売りするため、密かにCDOの価格を凍結していることに気づいた。
銀行の不正行為に怒ったチャーリー・ゲラーとジェイミー・シップリーはマスコミに密告しようとするが『ウォールストリート・ジャーナル』のライターはウォール街の投資銀行との関わりがあるため、動こうとはしない。
市場が崩壊し始めると、イギリスで休暇中のベン・リカートはスワップを売る。
彼らは最終的に3,000万ドルの投資を8,000万ドルに変えるが、リカートは一般大衆に深刻な結果をもたらすことを告げたのだった。
── 終幕
マイケル・バリーは世論の反発と国税庁の監査を受けてファンドを閉鎖、現在はWater Security(水の安全保障)にのみ投資をしている。
ジャレド・ヴェネットは、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)で得た利益から4,700万ドルのボーナスを受け取った。
マーク・バウムは金融危機の影響から潔癖になり、スタッフはファンドの運営を続けている。
チャーリー・ゲラーとジェイミー・シプリーは格付け会社を訴えようとして失敗。その後は別々の道を歩み、ジェイミーは引き続きファンドを運営、チャーリーは家庭を持つためにノースカロライナ州シャーロットに引っ越した。
ベン・リカートは、再び平穏な引退生活に戻った。
マネー・ショート 華麗なる大逆転《The Big Short》の、観る前に知っておきたい基礎知識と見どころ|元ネタとなった事件
映画冒頭に登場する言葉
"It ain’t what you don’t know that gets you into trouble. It’s what you know for sure that just ain’t so." – Mark Twain
「厄介なのは知らない事じゃない。知らないのに知っていると思い込むことだ」─マーク・トウェイン
マーク・トウェインは『トム・ソーヤーの冒険』などを書いた、知らないと恥ずかしいレベルで有名なアメリカの作家。
東京ディズニーランドの『蒸気船マーク・トウェイン号』は、彼の名前から付けられています。
ルイス・ラニエリとは?
名門投資銀行『ソロモン・ブラザーズ』に在籍し、副会長まで上り詰めた。
MBS(Mortgage backed securities、不動産抵当証券)の父とか呼ばれ、一時は『ブルームバーグ・ビジネスウィーク』誌の「過去75年間で最も偉大なイノベーターの一人」にも選ばれましたが、後のサブプライムローン危機で評判を落としました。
ちなみに劇中で、ジャレッド・ヴェネットがジェンガ(もちろん、あのパーティーゲームの)を使ってMBSの中身の正体を説明するプレゼンのシーンがあるんですが、オシャレでわかりやすくてしかもカッコいい。
Bear Stearns(ベアー・スターンズ)とは?
ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、メリルリンチ、リーマン・ブラザーズに次ぐ、全米5位の投資銀行でした。
しかし、サブプライムローン問題の影響で経営が悪化し、JPモルガン・チェースに買収されました。
LTVって何?
マーケティングに触ったことのある方ならご存知なLTVとは、Life Time Valueの略称。
日本語にすると「顧客生涯価値」という意味です。
つまり、顧客がある会社の商品やサービスの利用を開始してから終了するまでの期間に、その顧客からどれだけの利益を得ることができるのかを表す指標です。
一回買ってもらって終わりとかじゃなくてリピーターとして、単価に購買頻度やら継続期間やらを掛けて算出します。
タルムード
『タルムード』とは、厳密に言えばユダヤ教の律法集。
しかしユダヤ教徒以外の人間にとっては「成功者の多い、つまり金持ちの多いユダヤ人が子どもの頃から学んできた書」という、少々曲がった見方をされている本です。
「人は、凶事の確率を低く見積もっている」
チャーリー・ゲラーのセリフ「人は凶事の確率を低く見積もってる」は、まさに心理学用語で言うところの『正常性バイアス』ですね。
予期しない事態に対して「自分は大丈夫」「大したことないだろう」と判断してしまう心理のことです。
まぁ現実に起こるかもしれないという不安を見ないようにして、過剰なストレスから身を守る本能的な防衛手段みたいなもんですよね。
犬コミュニティでの出会いも、あなどれない
「ベン・リカートとは犬の散歩で知り合った」ってとこ、なんか好き。
この金融危機で800万人が失業し、600万人が家を失った
映画の最後では、この金融危機で「800万人が失業し、600万人が家を失った」と締められます。
800万人つったら、東京都の隣の埼玉県の人口より多く、600万人つったら大阪府に隣接する兵庫県の人口より多いのです。
When the Levee Breaks - Led Zeppelin
エンディングに流れる "When the Levee Breaks" が熱いです。
個人的にLed Zeppelinで一番好きな曲。カヴァーだけど。
詞の内容は1927年のミシシッピ大洪水のことを歌っているんですが、タイトルの「堤防決壊」が映画の内容にハマりすぎ。
制作者は、よくこの曲を思い出しましたね。
マネー・ショート 華麗なる大逆転《The Big Short》の、キャストと予告編|Cast and Trailer
◎2h10m (2015)
- マイケル・バリー(住宅市場のバブルを最初に発見した人物の一人で、自身のヘッジファンド『サイオン・キャピタル』を運営している。Tシャツ・短パン姿のメタル好き):クリスチャン・ベール
- ローレンス・フィールズ(マイケルの主要顧客。彼の戦略に反対する人々を合成した架空の人物):トレイシー・レッツ
- ジャレッド・ヴェネット(ドイツ銀行のグローバル資産担保証券取引担当重役だが、自分の利益のためにマイケル・バリーのCDSを売る。モデルはアメリカのヘッジファンド・マネージャー、グレッグ・リップマン):ライアン・ゴズリング
- マーク・バウム(小さな金融トレーディング会社『フロントポイント・パートナーズ』のリーダー。アメリカの投資家、スティーブ・アイズマンがモデル):スティーヴ・カレル
- チャーリー・ゲラー(ジェイミー・シップリーとともに『ブラウンフィールド・ファンド』を経営。ヴェネットの資料を発見した):ジョン・マガロ
- ジェイミー・シップリー(チャーリー・ゲラーのパートナー経営者。ベン・リカートの隣に住んでいる):フィン・ウィットロック
- ベン・リカート(すでに引退している元トレーダー。チャーリーとジェイミーのトレードを手伝う):ブラッド・ピット