「リリーのすべて/The Danish Girl」は、世界で初めて性別適合手術(Gender-affirming surgery)を受けたという実在の画家であるリリー・エルベと、妻のゲルダをはじめとするその周囲の人たちとの関わりを描いた映画です。
性別適合(性転換)手術てのは、トランスジェンダーの方が身体と自認の性を一致するためにする外科手術のこと。性器を切り貼りしたりするんですから、包茎手術などのような簡単なものでないということはわかります。いや包茎手術も簡単じゃないかもしれませんね、すみません。
絵のモデルとして女性を演じたことをきっかけに、自分が女性であることに気付いたアイナーは徐々に変化していき、夫婦として円満に築いてきたゲルダとの関係も変わっていきます。
大きなテーマとしては性の自認となっていますけど、そういう性愛的な何かを超えた夫婦の愛にもグッときます。
シスジェンダー(cisgender)の自分でも胸が苦しくなったので、たぶん当事者の方だとなおさらかと。アカデミー賞ほか多くの賞を受賞し、エディ・レッドメインの演技も世間的に高く評価されました。私も高く評価し、ここに讃えます。
リリーのすべて《The Danish Girl》の、あらすじ|トランスジェンダーだった夫を支える妻の愛
1920年代中頃、デンマークの首都コペンハーゲン。
肖像画家のゲルダ・ヴィーグナーは、制作中の絵の女性モデルである友人のウラが来られなくなったため、代役を夫である人気風景画家アイナー・ヴィーグナーに依頼する。
その際に、女性の仕草を真似るという行為でアイナーは実は自分が女性であると認識し、自らをリリー・エルベと名乗る。このことをきっかけとしてアイナーは、これまで男性として生きてきたアイデンティティを徐々に捨て去っていくことになった。
リリー(アイナー)とゲルダはパリに移り、ゲルダが描いたリリーの肖像画は画商たちの注目を浴びはじめる。ゲルダはそこで、アイナー(リリー)の幼なじみであるという画商ハンス・アクスギルを探し出す。ゲルダはアイナー(リリー)との関係の変化に戸惑っていたが、ハンスはアイナー(リリー)との長年の友情からリリーとゲルダを応援する。
やがてアイナーは、男性として居続けることに耐えられなくなり心理学者に助けを求めるが、どれも成果をあげられず、時には精神病院に収容されそうになることもあった。
やがて友人ウラの勧めで、リリーとゲルダはドイツ人の医師クルト・ヴァルネクロス博士と出会った。ヴァルネクロス医師は、リリーのように身体は男性だが自分は女性であると認識する人々に会ったことがあると言う。そして男性から女性への性転換手術という、革新的な新しい解決策を提案する。それは、まず男性のちんちんを切って、体力の回復後に膣を作るという2段階の手術である。
ただし前例は無く、非常に危険なものであるという。しかしリリーは迷うことなく同意し、ゲルダをおいてドイツに向かう。
とりあえず最初の手術は無事に終わったが、感染症がひどく予後は悪い状態。ゲルダはしばらくの間、リリーに付き添うことにする。いったん回復を見せたリリーはデパートで女性用の香水を売り始め、もともと彼女に興味を持っていたアイナーという男性と親しくなる。
そのことがゲルダを悩ませる中、リリーは2回目の手術へ向かう。
手術が終わりゲルダは再びリリーの元へ現れるが、リリーは顔色が悪く弱っていた。そしてリリーは2回目の手術の合併症で死んでしまう。ゲルダとハンスは、ハンスとリリーが育ったデンマークの丘の上に戻り、リリーがよく絵を描いていた5本の木の前へ行く。その時リリーがゲルダに贈ったスカーフが、風に乗って空高く舞っていった。
リリーのすべて《The Danish Girl》の、観る前に知っておきたい知識と見どころ|自身の内なる性に気付くシーンの緊張感
タイトルの類似
他人から勧められて観たんですけど、はじめこの邦題を聞いた時「リリイ・シュシュのすべて」のことだろと思いました。あれ以来、他の作品でも忍成くんが出てくるたび怖くて震えが止まらなくなったアレです。
たぶん日本語ネイティヴの人はみんな「リリイ・シュシュのすべて」のことだと思ったでしょうし、配給側もそこを狙ってタイトル付けたのではないかと。だって正直この邦題は、なんかこの物語をきちんと表していない感じがします。
今でも同性結婚を認めないとかいう人権意識の希薄な国
史実と映画の設定は時代がちょっとズレていますが、映画では1926年のコペンハーゲンがはじまり。いずれにしても今よりずっとセクシャルマイノリティーに厳しい世の中だったことは想像できます。
同性愛自体が違法な国もあったりとか。今でも同性結婚を認めないとかいう古臭い国ありますよね。
性的少数者という存在
この頃は、トランスジェンダーという人たちの存在がまず知られていない。だから概念そのものがなく、つまり本人もなかなか違和感に気づきにくいのでしょう。医者ですら「異常性」とか「同性愛者」とか「精神分裂」とか今の感覚だとムチャクチャなこと言っていますからね。もう本人も妻も含めて関係者たちはみんな混乱していますよ。
ただし肉体から元に戻したい人もいれば、ただ女装だけで満足している人もいるらしいので、人の世は単純ではありません。そういや男装でカッコいい人の方が女装で美しい人より多い気がするなんて言ったら叱られますか?
女性用の服を身に付けるシーンの、張り詰めた空気感
映像の彩度を落としてモノクロにちょっとだけ近づけると、昔っぽい感じになるという発見。人は「何を今さら」と鼻で笑うかもしれないけど。各シーンの画が絵みたいに見えるのも画家夫婦の話だというのを意識していますよね。
なお開始10分程度で、もう自身の内なる性に目覚める(気付く)シーンが出てくるのですが、この女性用の服を身に付ける場面の張り詰めた空気感に呼吸ができなくなりました。
心と身体は別物なのに繋がっている
病気でないのに病気みたいな苦しみですが、体調も崩すところを見ると心と身体は別物なのに繋がっているんだとよくわかります。妻のゲルダや友人ハンスなど、理解者の存在がめちゃ大きいですね。特にゲルダの元夫に対する愛情を見ていると、みぞおちを打たれたような感じになります。
みんな、神って頼めば何かをしてくれるものと勘違いしているけど、実際には「生き物にとって確実に残酷な存在」ですよね。
リリーのすべて《The Danish Girl》のキャストと予告編|Cast and Trailer
◎2h (2015)
- ゲルダ・ヴィーグナー(主人公の妻):アリシア・ヴィキャンデル
- アイナー・ヴィーグナー→リリー・エルベ(性転換手術を受ける主人公):エディ・レッドメイン
- ハンス・アクスギル(アイナーの少年時代の友人):マティアス・スーナールツ
- ウラ(ゲルダの絵のモデルで夫妻の友人):アンバー・ハード
- クルト・ヴァルネクロス博士(リリーの手術を担当する医師):セバスチャン・コッホ