誰も病気にならないし事故にもあわない、恋敵も登場しない。なのに思い当たる節が再上映されてる感じで頭を抱えたくなる、そんな恋愛映画です。
そして観た人同士で、どうしても語り合いたくなって我慢できなくなる系統の作品なので、上映当時ネット上で考察を語る人々が続出。観た人たちの間で大変な賑わいをみせたものでした。
《花束みたいな恋をした》の、あらすじ|終電を逃したことで偶然出会った男女の、5年間の恋の行方
2015年、山音麦と八谷絹は大学生だった。ある夜、京王線明大前駅で終電を逃した2人は、赤の他人同士だったが始発を待つ仲間として居酒屋に立ち寄り、そこでまず靴が同じであることに気づく。さらに席につきハイボールで乾杯した後、二人は多くの共通点を発見。好きな本、作家、映画の趣味が驚くほど一致し、イヤホンの絡まり方や映画の半券をしおりにする習慣まで同じだった。
さらに2人は、偶然持っていた同じ日の「天竺鼠」のライブチケットを見ながら、もし行っていたら会っていたかもしれないという話をする。しかし絹は「でも、もし行ってたら今日は会ってなかったかもしれない」と返し、麦はそれを受けて「そしたらこのチケットは今日ここで会うためのチケットだったってことですね」と言う。この会話を通じ、2人の間に特別な空気が流れ始める。
その後2人はカラオケに行き、お互いの好きな曲を一緒に歌う。帰り道、甲州街道を一緒に歩きながら好きな小説や歌について語り合い、お互いに同じことを考えている相手がいることに感動していた。途中、雨が降り麦の家に向かった2人は、本棚の本が同じであることに驚き、麦が撮ったガスタンクの3時間21分もある動画を一緒に鑑賞。朝、絹が帰りのバスに乗り込む際、2人はミイラ展に行く約束をする。
それから何度もデートを重ねて恋人同士になった2人は、大学を卒業した後フリーターをしながら、調布駅から徒歩30分の多摩川沿いの部屋を借りて同棲生活を開始。近所にお気に入りのパン屋を見つけ、拾った猫に名前をつけ、渋谷パルコの閉店やスマスマの最終回など、さまざまな出来事を一緒に経験する。
絹は、簿記の資格を取り医療事務の仕事を始めた。一方、麦はイラストレーターを目指していたが、ギャラは安く叩かれた。さらに麦は親からの仕送りも絶たれ、結局は生活のために営業職として就職。やがて仕事に忙殺されイラストへの熱意を失った麦は、マンガやゲームの新作にも興味を失い、さらには2人の間に会話やセックスもなくなってゆく。
そんな中、絹は知り合いの先輩が経営しているイベント会社への転職を考え始める。ところが麦は「俺が働くから、絹ちゃんは働かなくていいよ。家で好きなことしてればいいじゃん」と、絹にとって最低なプロポーズをしてしまう。絹は「想像してたプロポーズとは違った」と萎えまくりますが、二人は謝り合い何事もなかったかのようにお茶を飲んだ。
ある日、麦の先輩が亡くなる。麦は一晩中先輩の話をしたかったのだが、絹は早く寝てしまう。麦は一人でゲームをし、散歩をし、泣いて眠くなってから寝た。翌朝、絹は麦と同じように悲しめなかったことを謝ろうとするが、麦は話を遮るように「行ってきます」と家を出てしまう。この瞬間、お互いに「どうでもよくなった」。
時間が経つにつれ、2人の関係にはっきりと変化が表れた。麦が就職し普通に働き始めたことをきっかけに、2人の靴はお揃いではなくなり、服装も徐々に違いが目立つように。
物語の冒頭は、まったく関わりのないカップルが1つのイヤホンを共有している状況を指摘するシーンから始まるが、このシーンが実は麦と絹が別れた後の状況だったことが後に明らかになる。また、2人が直接は会話していないものの同じことを考え同じことを友人に伝えているシーンが、冒頭のシーンと知人の結婚式シーンで繰り返される。
《花束みたいな恋をした》の、観る前に知っておきたい知識と見どころ|そこは、京王線と甲州街道
京王線
物語の舞台は、京王線。東京(新宿)と八王子を結ぶ線だから京王線。オープニング、2人の出会いの場所となった明大前駅は、個人的に一時期住んでいたことがあるわけで、それはもう懐かしさでいっぱいになったのでした。
で、駅構内の立ち食いそば屋がまだあったことに興奮して震えました。
土地勘がありすぎるとこうなる
そんな感じなので、土地勘がありすぎて。たとえば終電を逃して夜カフェに行った人たちは、麦くんと絹ちゃんのほかに大人の男女(女性の方は瀧内公美さんだ)がいたんですが、結局タクシーで千歳烏山に向かいます。烏山は、たぶん明大前よりも遅くまでやっている飲み屋が多いし、ラヴホテルも1軒あります。そういう主演の2人以外の細かい展開までイメージできてしまうのです。
夜の甲州街道の画も、つつじヶ丘の線路沿いも、調布パルコも飛田給も超見慣れた光景であり「明大前で終電逃してカフェ行って居酒屋行ってカラオケ行った後に歩いて調布に向かうって…暗いうちに帰れないだろ」って思いながら観ていたら、大切な何かを逃した気になりました。
でも居酒屋で麦くんが知り合いの女の人と会った後、店を出た絹ちゃんが機嫌悪くなっていた可愛いシーンは、脳裏にプリントされました。
身近な光景に興奮した人が語る、さらにウザい追記
麦くんが最初に一人暮らししていた部屋、設定では調布と言ってるけど、実際にロケ場所として使われた若武マンションは、府中にあります。あと<府中にある行列ができる餃子専門店くりばやし>くりばやしの餃子も府中です。
「結構マニアックって言われるけどね」
麦くん:「え、映画とか観ないんですか?」
恩田さん:「観るよ。結構マニアックって言われるけどね」
麦くん:「どんな映画?」
恩田さん:「『ショーシャンクの空に』っていうのとか」
麦くん「……」
決してマニアックではない私でも、この “マニアック発言” からのショーシャンクという流れは「ズコーっ」となるけど、押井守監督は名前を知ってる程度で作品は観たことない。ゆえに、もしこの中にいたら混乱して無口になる自信があります。
たった3回デートをした程度じゃ、相手のことを何もわからなすぎる
麦くんが3回めのデートで何とか絹ちゃんにアプローチしなきゃと焦ってて、実際に世間では「気になってる同士の男女が3回一緒に飯食って何もなかったら…」って言うらしいですが、私はたった3回のデートじゃ何もわからないだろと思う派です。
「お付き合いしましょ」となった後で、2人が「付き合ってる人がホワイトデニム穿いてたら、ちょっとだけ好きじゃなくなります」とか「はいUNOって言わなかったから2枚取ってーって言う人、苦手です」と互いに伝え合うんですが、こういった話は、付き合う前にしとくべきじゃないですか?
これ、世界で日本と韓国だけに存在するという「告白」というおかしな習慣から発生している風習かと思われます。
2人のすれ違い
意図的にだと思うんですが、男女のイメージが一般的なものと逆の感じに作られているような気がします。脳の構造が男は夢派、女は現実派…と、世間ではそんな認識ではないでしょうか。それとも時代が変わって男女の特性はステレオタイプなものと違うのが常識になったのでしょうか。
にしても、麦くんの一般社会への溶け込み方が極端といいますか。いろんなところでも語られていましたが、彼はサブカルな俺に憧れていただけで、もともと大衆側だったのでしょう。作品を消費するばかりで生産しない側はそんなもんなのかもしれません。
何と言っても、最後「別れたくない」からの「子ども作ってディズニーランド行って…」という麦くんが話す未来の予想図のくだりがかなり的外れで、絹ちゃんはますます「ダメだこりゃ」という思いを強めたのでした。
その他
- ガスタンクって、林さんじゃないか[ガスタンク2001]
- Awesome City Clubのボーカル、PORINさんが本人役みたいな感じで出ていました
- 清原さん、やっぱなんかすげえ(バカぽい感想)。もっと評価されてほしいです
《花束みたいな恋をした》の、キャストと予告編|Cast and Trailer
◎2h4m (2021)
- 山音麦(主人公、絹ちゃんの彼氏。イラストレーターを目指していたが、徐々に営業マンとして社会に溶け込んでいく):菅田将暉
- 八谷絹(主人公、麦くんの彼女。やりたいことに正直に、職も変えている):有村架純
- 青木海人(麦くんの先輩、カメラマン):中崎敏
- 川岸菜那(麦くんをとおして絹ちゃんとも仲良くなり、イベント会社を紹介する):韓英恵
- 恩田友行(2人と一緒に明大前で終電を逃したサラリーマン):小久保寿人
- 原田奏子(終電を逃した1人。恩田とどっかに行く、たぶん最終的には烏山にあるCHITOSE HOTELかと思われる):瀧内公美
- 羽田凜(昔の絹のように恋が始まりかけている女の子):清原果耶
- 水埜亘(昔の麦のように恋が始まりかけている男の子):細田佳央太